なんかあのときみたいに変だよ。
あの最悪だったときみたいに。
またああなっていくんだろうか。
あの頃、見てた?
すごく変だったんだ。
でもそれよりもずっと変だ。
ずっと、ものすごく、変なんだ。
おまえにとっては全てがぼくだったけど
ぼくが行ったり来たりしてるとき、おまえはどうおもってた?
きっとどうなってもおまえのことを大事にしたけど
人には見せないような様子を見せた。
なんて言われるだろうかと
ぼくがどんな風でいても
おまえは足にすり寄ってきて、
満足そうにくねくねしてた。
あのときのぼくみたいに
おまえだったらわかるだろう
ぼくがどうなってしまってるか。
おまえだったらわかるんだ。
でももうだれにもわからない。
2013年5月22日の明け方
イチゴさん、ぼくは何才になるまで、おまえのことを覚えているのだろう。
もしかしたら老人になったら、おまえのことを思い出せなくなってしまうんだろうか。
おまえのことを忘れている自分なんて、もうおしまいだとおもうんだ。
イチゴさん、ぼくの引っ越したときの衣類の中に、できるだけおまえの毛が紛れ込んでいてくれることをぼくは願っている。
おまえが生きていたときの自分がずぼらだったことを、これほど感謝したことはない。
ぼくは服についたおまえの毛を掃除機や粘着テープで取り除いたりせずに、毛だらけで外に出掛けた。
そのほうが良かった。
別にDNAでおまえを蘇らそうとおもっているんじゃない。
おまえがいたということがそれでわかるんだ。
毛で。
それで、ぼくは字を書く。
字は、ぼくの毛で、だらしがないのだ。
もし仮にぼくの遺伝子でぼくのコピーがつくれる時代になっても
時間と偶然の出来事と、体調と脳の分泌物のバランスと、いろんなことが合わさって出てきたこの言葉の連なりを、もう一つ作りだすことは不可能なんだ。
おまえの毛も、一日のものじゃない。
毎日、毎日、ぼくと遊んで、病気がちの日も楽しい日も怒っている日もくっついていったんだ。
だからそう、そういうわけで、ぼくがいつか死んでしまっても
何かまた、取り返しのつかないものを失う気がする。
船に乗って、宇宙空間に、地球から離れてるみたいだ。
そうしてみたくてそうしてるうちに、地球に帰れなくなるんだよ。
そんな感じがする。
イチゴさん、今日ぼくは、人に自分の目を見せた。
人間に目がついてるのはだいたい普通のことだけど、ぼくはなぜか人に目を見せるということがすごく、恐かった。
ぼくの目を見たふくろうが、イチゴさんの目に似てると言ってくれた。
うれしかったよ。ぼくはおまえみたいな強い目になりたかった。
ぼくは何日も、だれとも口をきくこともできないで、部屋の中に倒れて、飲むことも食うこともできないで倒れてたけど、おまえが横でじっと見てたから立った。
おまえの目は、なんだか、喧嘩を売ってるみたいな目だった。
べつに喧嘩を売ってるわけじゃないけど、どうしたいの?死ぬの?したいようにすればいいけど、って言ってるみたいだった。
それで、答えを待ってるみたいに、別にぼくの横にいる必要はないのに、ひたすら横に立ってじっと見てた。
それでぼくは立った。
あのときは、なんとなくで全然気付かなかったけど、今おもうと、おまえはほんとに、別にぼくの横にいる必要もないのに、なんでわざわざそこにいてじっとこっちを見てたんだろうとおもうし、何か意味があったんじゃないのかとおもう。
早く飯をくれと言ってたのかな、飯ならあった。
おまえなりにぼくが立つのを待ってたということにするよ。
おまえの目はとてもまっすぐだったので、ぼくもまっすぐな目になりたいとおもう。
イチゴさん、今日なんとなく、おまえの顔を見てた。
写真の中のおまえの顔をぼんやりして見てた。
そしたら、もういないんだという気持ちがしてきて、もうおもわないようにしようとおもったんだけど、なぜか途中から、わざともういないんだとおもいつづけて、無理矢理、わざとおもいつづけて、ついに嫌になって泣き出した。
おまえがいないのはほんとに嫌だ。
なぜかって、ただ嫌なんだよ。
イチゴさん、
どうしよう。
どうやって生きたらいいのか生きててもいいのかもわからんくなっちゃった。
おまえがいるとぼくには
ごはんの役目があったんだけど。
クリス。お久しぶり。
何度かノートに手紙を書いたけど、全部破って捨ててしまった。
もし死んだ後にいくところがあるんだとしたら、クリスはどうしてる?
いつかぼくが瞼の裏で見たときみたいに、暗くて何も無いところを、おしゃれな服を着てずっと歩いてる?
だれもぼくのことを信じてなんかいないと知ってる。
だけど仕方ないよ。
悪いとおもうことをしてるわけじゃないし、いいことをしようとしてるわけでもない。
ただそうおもうだけ。
ここ2日間くらい、数独を必死に解いてる時間がすごく多くて、バカみたいに解いてて、目も頭も痛い。
数独、覚えてる?
クリスん家に遊び行ったときに、毎回競争してたあの数独だよ。
あれ、今おもったけど、あのとき狂ったように一日中ゲームをやってたクリスの気持ちがちょっとだけわかるような気がして、それを話したくて手紙を書いてる。
どうおもったのかというと、他のものを何もしたくなかったんじゃないかっておもったんだ。
クリスが意識してそう思ってたかどうかは知らないけど、すごく辛かったようだし、ただ、遊んで忘れたかったんじゃないかとおもって。
そんなこと言ったら苦笑いみたいな顔して「全然。おれは全然、辛くなんかないよ。楽しいだけ」って言うとおもうけど。
クリスの最後の恋人は言ってた。
「クリスは嘘しか吐かない大嘘つき、そしてあんたは嘘をつかないバカ正直。どっちも弱虫で、一枚の紙の裏表にくっついてるみたいだ」って。
ぼくもここ2日間は、何かから逃げたがってたかもしれないとおもう。
ただそれだけ。
もう遠くに引っ越してしまったから墓参りもできないけど、帰れるときがあって、時間がつくれたら、ひとりでひっそり墓参りにでも行ってみようかとおもうよ。
クリスの母さんから借りたクリスが子どものときのカセットテープ。まだ持ったままなんだ。
どうにかしなくちゃ。ごめんよ。
7 Mar 2013
イチゴさん。元気ですか。ぼくはほんの少し元気です。
きみがいた頃飲んでた薬はもうとっくの昔になくなって、
今は違う薬を飲もうとしているところ。
きみがいた頃ぼくは自分がだれなのかよくわからなかった
今は少しわかる気がする。でもそれはもしかしたら
自分がだれでもないということを認めるようになってるからかも。
また何日かしたらぼくは、だれかでありたくなって
自分がだれだかわからなくなるかも。
きみがいた頃
ぼくは、おもいだす
ささくれた畳と煙の匂いの部屋
だけどきみのことを大事にしてた。
きみのことだけは大事にしてた。
それが自分を大事にすることだった。
きみは猫だった。
人が見たら笑うかもしれない。
でもぼくには大事だった。
ぼくにはとても大事だった。
1 Feb 2013


2011年10月26日永眠。
Anonymous asked: 泣くー~~~
なにか辛いことでもあったのか。
Anonymous asked: 絵は思い出のみで描いたの?茶ットコの時喋りながら私も描いた最近居無いのに良く勘違いしてる(コド)
そうです記憶です。写真もあるけど、イメージ。